読書のすすめ - Vol. 1

文武両道、日本になし―世界の秀才アスリートと日本のど根性スポーツマン『文武両道、日本になし』
マーティ・キーナート (著)

著者の名前を見て、気づかれた方も多いと思う。そう、来年プロ野球に参入する東北楽天ゴールデンイーグルスのGMに就任した人物である。アメリカのスタンフォード大学出身というエリートであり、日本文化にも慣れ親しんでいる彼の書いているコラムはいつも興味深く読んできた。

彼はこの本の中でスカラー・アスリートという日本では聞き慣れない言葉を紹介している。これはスポーツにおいて世界のトップレベルで活躍しながら、現役中もしくは引退後に医者や弁護士、宇宙飛行士等の一般的に就業が難しいとされる職業に就き、活躍するアスリートのことを指す。タイトルにあるように日本語でいう文武両道である。アメリカにはスカラー・アスリートが数多く生まれてきており、今後も生まれていくであろう一方で、日本ではそれがないと彼は指摘している。

私が思うこの本のキーワードは“バランス”である。アメリカに多数存在するスカラー・アスリートの例を挙げながら、そういったアスリートを多数生み出すバックグランドが紹介されている。それに比して、日本の教育システムにおける体育教育のあり方、部活動のあり方に著者は警鐘を鳴らしている。彼曰く、日本の「ど根性スポーツマン」は学業を犠牲にしてスポーツに打ち込む、もしくは打ち込まなければならない環境にあると。

自分がスカウトとして高校生や大学生のチームを視察していた頃を思い出した。若い選手達は、プロ選手になることを目標とし、毎日プロ選手並かそれ以上の練習をしていた。スポーツ推薦という制度のおかげで受験を経験することなく高校や大学へ入学できる彼らは必要最小限の勉強をすればそれでよいのだ。しかし、その中からプロとして食べていけるのは一握り。そして、プロになったとしても10年以上プレイできる選手はその中からまた一握りである。自分がプロ選手としてプレイしていた時も、契約を解除され、途方に暮れてどうしてよいのかわからない状況に陥る選手達を山ほど見てきた。もちろん、自分もそのうちのひとりであった。現在のシステムにおける弊害の一つがプロ選手のセカンドキャリアに存在すると思う。

なにも「プロ選手も勉強すべきだ」などとは言っていないし、そんなつもりもない。ただ、プロとしてのキャリアの中にいても、様々な事を見る目を持っていた方が良いのではないかということだ。その手段が学問であってもいいし、他の何であってもいいと思う。そうした中から、いろんな世界の中に存在する自分、もしくは自分の位置を把握することでバランス感覚を身につけることができると思う。また、それによって、様々な相乗効果も現れてくるのではないだろうか。

もし、自分が若い時にこの本に出会っていれば、サッカー選手になるという夢だけでなく、サッカー選手をしながら会計士になるといった夢を描いたかもしれない。

今後、自分の息子達も含め、若い人達に話をする機会があれば、必ずこの本に書いてあるスカラー・アスリートのことを紹介したいと思う。不可能なことはないんだと。