コーチの志 - Vol. 5
日本でもおなじみとなったナイキプレミアカップのイングランド大会を視察する機会に恵まれた。この大会は15歳以下の選手の育成を目的とし1993年から始まり、現在では世界40カ国、6000チームが参加しているようだ。ちなみに今年の優勝チームは7月に香港で開かれる世界大会に参加することになる。
イングランド予選はイースター休暇を利用して、プレミアリーグ、またはコカコーラ・チャンピオンシップに属するアカデミー・20チームで行われた。予選、決勝トーナメントをあわせて全部で9試合を観戦したのだが、特に、アーセナル、スパーズ、フルハム、チェルシー、そして去年の優勝チーム、マンチェスター・シティーは非常に見ごたえのあるサッカーをしていた。まず驚かされたのが…選手が大きい事!フルハムに関して言えば、ピッチ上8人の選手が185cmを超えており(もう一度繰り返すが、彼らはまだ15歳なのだ!)、しかも身長が高いだけでなく、(特に黒人選手は)横にも大きく、筋肉の付き方が非常にきれいであった。
やはりトーナメントで上がっていくチームは、ファーストタッチ、パスの質、ボールを受ける時、またはオフ・ザ・ボールでのボディーシェイプの取り方はもちろん、攻撃時、または守備時において、チーム全体で共通の意図をゲームで表現できたチームであった。優勝したアーセナルに関して言えば、攻撃時のテンポがとてもよく、ボールを奪った直後は、なるべく速く前線に、タッチ数を少なく、短い時間で攻撃を仕掛けることができていた。そしてパスの質も良く、見方選手のスピードを殺さず、必ずスペースに出していた。特に、波に乗った時の攻撃はまるで本物のアーセナルの攻撃を見ているようだった。これはあくまでも自分の推測だが、彼らの戦術理解度の高さは、教えられたものだけではなく、実際トップチームの試合、練習を目のあたりにして自分達が感じ取った部分も多いのではないだろうか!?
いずれにしても、優勝チームのアーセナルU15と、ホストチームのマンチェスター・ユナイテッドの2チームがイングランドを代表して大会に参加する事になる。日本からの参加チームはまだ決まっていないかもしれないが、早い段階で世界の強豪チームを相手に試合をできる事は非常に素晴らしい経験であると思うし、今後こういう大会がもっと増えていけばよいと思う。
最後に、日本人選手とイギリス人選手を比較して思う事を、Jリーグユースの関係者の方々(卒論のためにインタビューさせて頂いた)の言葉も借りても一言書きたい。近年、育成年代の日本人選手の評価は高く、特にボールの受け方や、フェイントなどの技術は非常に高いと思う。しかし、相手選手と体を合わせた時、またはプレッシャーを受けながらのボールキープが課題であると思われる。今後、フィジカル面(パワー面)でのディスアドバンテージさえ克服できれば、海外のチームと同等、もしくはそれ以上の試合ができると感じた。
(余談)
この大会を通じて、一つ疑問に思った事があった。それは、ヨーロッパのビッグクラブと呼ばれるチーム、アーセナル、チェルシーなどの下部組織の在り方である。今回のチームにも上手な選手は多くいたのだが、彼らにとって“良い選手”では上にあがった時に通用しないのである。
先日、マンチェスター・ユナイテッドアカデミーのテクニカルコーチ、レニーと話した際、彼は「将来チャンピオンズリーグで通用する選手、または最低でもユース年代で国を代表する選手でない限り、トップチームとは契約できない」と話していた。つまり、プレミアリーグで通用する選手だけでなく、チャンピオンズリーグで通用する選手、言い換えれば、よほど突出した才能がなければプロとして契約できないのである。2月にマンチェスター・ユナイテッドとリヴァプールのトップチームの練習を視察した際、どちらのチームもトップチームで練習している、ここ2,3年でユースから上がってきた選手はいなかった。つまり、平均して言えば一年代に、自らの下部組織で育った、トップで通用する選手は一人以下なのである。ある試合でアーセナルがベンチ入りも含め、一人もイギリス人選手がいなかった事があった。こういう事も含めUEFAでは、以後UEFAの主催する大会に出場するためには最低2名以上ユース出身の選手を25名の登録枠の中に入れる事が義務付けされるようである。
しかし、これだけではもちろん十分ではないだろう。この問題を、下部組織のコーチは受け止めているのか、または選手達は今の現状をどう受け止めているのだろうか?一度、是非調べてみたいと思った。
1980年5月9日生まれ、福岡県出身。小学校1年からサッカーを始め、東福岡高校卒業後、渡英。
現在、リヴァプール・ジョン・ムーアズ大学でサッカー科学を専攻するかたわら、トランメア・ローヴァーズ下部組織とマンU・サッカースクールでコーチを務める。
FAコーチングライセンスおよびFAインターナショナルライセンス保持。
連絡先: ryo32@hotmail.co.uk