MAN IN BLACK - Vol. 2
3月11、12日の2日間、イギリス中部のスタヴァトンで行われたプレミアリーグレフェリー(PGMOL)のトレーニング研修に参加することができた。全レフェリーが集合して行われるトレーニングは月に2回、ランカシャーサッカー協会、そしてスタヴァトンの2つの会場で行われている。
今回のスタヴァトンでのセッションは、1泊2日の日程で、1日目の午前中はフィジカルトレーニング、午後は講義、ディスカッションなど、2日目の午前中は試合に向けてのコンディショニングトレーニングが行われた。会場は、様々な会議に対応でき、またスポーツ施設も併設されたホテルで、非常に環境のいいところだった。
フィジカルトレーニングは、フィットネスコーディネーターである、マット・ウェストン氏によってすべて指導され、運動強度のチェックは各自の心拍計で管理されている。実際の試合中はもちろん、自宅でのトレーニングでの心拍数もチェックされている。シーズン前には運動負荷試験で最高心拍数も測定し、それを元にパーセンテージで運動強度を瞬時に割り出すよう心拍計も設定されている。
1日目のトレーニングでは、まずウォーミングアップでサッカーフィールドの周りを2週した後に全体でのストレッチ、次にゴールラインから逆のゴールラインに向かっていろいろなステップを15mほどいれて、その合間にウォーキングをはさんだ。その後、この日にメインである高強度トレーニングを行った。最後に、2チームに分かれてゲームを行った。
昼食後、危険なタックルの判定基準の再確認した後、レフェリーが退場とすべきタックルが、なぜ警告やただのファールとして判定されたか、その理由を模索し議論。またハンドリングの解釈について、意図的なものかどうかを映像をみながら検証した。その他、異議への対応、ペナルティーキックでのポジショニング、警告の出し方、マス・コンフロンテーション(選手間の集団での口論、もみ合い)への対処が話し合われた。
その後、ディベートのセッションが行われ、議題は「試合中の重大な問題を挙げ、それらをレフェリーとしてどう対処するか」というものだった。3グループに別れ、約30分後、全体で各グループで話し合われた問題と対処法を発表した。挙げられた議題は、マス・コンフロンテーション、攻撃的、侮辱的発言、危険なタックル、レフェリーの見てないところでの不正行為などだった。
マス・コンフロンテーションとは、日本ではまず見られない、試合中に選手が入り乱れてもみ合うシーンで、イングランドのサッカーにおいては時折見られる。そしてレフェリーとしてそれにどのように対処するかということが、どのレベルにおいても盛んに議論されている。一般的な対処法としては、ヒートアップした選手たちの中には取り入らず、主審と副審2人で選手たちの集団の周りに3角形を作りそのすべての出来事を観察する。そして事態が終息した後に適正な処置をするということが言われている。このようなケースの場合、最低でも警告が2枚必要だということも確認された。これには、まず最初に発端を作った人物、またそれに報復しようとした人物が必ず存在するという定義に基づいているそうだ。当然、乱暴な行為などその他の重大な出来事があれば、それらに応じて対処される。
以上の内容で、プレミアリーグ担当のレフェリー、いわゆるセレクトグループの1日目のセッションは終了した。ただ今回はデヴェロップメントグループと呼ばれる、次期プレミアリーグ担当候補のレフェリーたちも参加していて、彼らにはまた特別なセッションが用意されていた。
PGMOLのレフェリーが解散した後に、ハケット氏が引き続き残ったメンバーに講義を行った。その中では、FIFAの作成した映像を用い、トップレフェリーのシグナル、ジェスチャー、選手とコミュニケーションを紹介し、その的確さ、明快さを紹介した。プレミアリーグではさまざまな国籍の選手がプレーしており、そのような言葉の壁を超え理解されるボディラングエッジも重要となると付け加えた。その他、プロゾーン(ProZone)という特別に開発された解析ソフトを使って、実際のプレミアリーグの試合でのポジショニングの分析なども紹介された。試合中の移動距離、判定の時のファールの位置とレフェリーとの距離などの数値が細かく表示されており、非常に興味深かった。
最後に、プレミアリーグが世界100カ国以上でテレビ放送されていることを例に挙げ、その舞台に立つことがどれだけ名誉なことかということを呼びかけた。さらに、目標をしっかり持って、また情熱を持って取り組むことが一番重要であると加えた。昨シーズンは一人もこのグループから昇格できなかったという話を聞くと、いかに狭き門なのかということを痛感させられる。
第1日目はその後の夕食で幕を閉じた。食事のメニューも栄養に十分配慮したものだった。
翌日の朝は、朝食の1時間半後に軽めの負荷のコンディショニングのためのトレーニングが行われた。風の強く、気温も低めであったが、ウォーミングアップから無駄のない流れでトレーニングが行われた。寒い気候ではトレーニングメニューを作成するときに、強度だけではなく、休みの長さや全体の効率を調整し身体を冷やさないような配慮が必要であると感じた。メニューはウォーミングアップは前日と同じで、その後アジリティー(敏捷性)とスピードのトレーニングを行った。
さまざまなレベルで体力テストの現場を見ていると、イングランドのレフェリーのフィットネスレベルは全体的にそれ程高くないようだが、プレミアリーグレフェリーに関しては徹底されたトレーニングもあって、年齢差、個人差はあるものの、非常に優れていると感じた。またその全員が心拍計をつけトレーニングを行い、評価をしているというシステムはとても科学的であり、さらに各レフェリーがそれを指標に主体的に取り組んでいる姿がとても印象的だった。いつもチームでトレーニングができるとは限らないレフェリーにとって、各自がトレーニングする際にも、運動強度を把握するため心拍数は非常に有用だと思う。トレーニング終了後、解散の前に一緒に集合写真を撮ってもらった。
以上、2日間の研修に参加してのレポートです。今回は、PGMOLのジェネラルマネージャーである、キース・ハケット氏のご好意により、このような貴重な経験を得ることができた。実際にイングランドのトップレフェリーとトレーニングを行い、その質の高さを実感することができ、またそれだけでなく、彼らの素晴らしいパーソナリティーにも触れることもできた。エリートレフェリーとは、判定だけが優れているわけではなく、信頼できる人間性であったり、ヒューモアのセンスであったり、内面の魅力を持っていることが今回改めてよく分かった。この経験は、レフェリーとして、またスポーツ生理学を研究するものとして、今後の財産となっていくと思う。
なお7月には、PGMOLの年次総会にも参加させていただく予定です。その時の模様も追って報告します。彼らの日々行っているトレーニングがホームページ(英語)で詳しく見ることができます。興味のある方はご覧になってください。
1979年1月20日生まれ、愛媛県出身。東京学芸大学院教育学研究科卒業後、渡英。
現在、日本人初のFAナショナルリスト審判員として活動中。平行して、リヴァプール・ジョン・ムーアズ大学大学院スポーツ・運動科学学科で博士号取得に向けてスポーツ生理学を研究中。
日本サッカー協会2級審判員、FAレベル3・ナショナル
リスト審判ライセンス保持。
連絡先: man_in_black@hotmail.co.uk