FIMBA通信号外 - Vol. 4

フットボールビジネス

皆様、ご無沙汰です。ここリバプールもすっかり春らしくなり、半袖でちょうど良いぐらいの気候になりました。湿気も全くなく、大変過ごしやすい季節で、地元の人はここぞ、とばかりにオープンパブで太陽の下美味しそうにビールを楽しんでます。まあ、そうでなくてもみんないつも美味しそうにビール飲んでますが・・・。

今回はイングランドのプレミアリーグクラブの経営状況を、ヨーロッパチャンピオン、我がリヴァプールFC(以下LFC)を題材にし、簡単にご説明したいと思います。先週遂に大方の予想を覆し、1984年以来のヨーロッパチャンピオンに輝いたLFC。決勝戦の大逆転勝利はチャンピオンズリーグ史上最もエキサイティングな決勝戦だった、といえるのではないでしょうか。私のクラスメイトの数名は様々な手段を駆使し、見事プラチナチケットを手に入れ、決戦の地イスタンブールへと赴きました。

私は地元のパブで観戦していたのですが、もう大変な騒ぎでした。試合開始前からのチャント、ブーイングはまさにスタジアムと同じ雰囲気。さすがに3点取られた前半終了時点ではあきらめムードも漂っていましたが、後半の信じられない展開、そして奇跡の優勝、ともう誰構わず抱き合い、ビールの掛け合いでした。翌日の優勝パレードには実に75万人もの観衆が集まったそうです。そのあたりの詳しい話は 私のブログに記してありますのでご興味のある方はぜひご参照下さい。

そんなチャンピオンズリーグですが、経営面から見てもとてつもなく大きな存在で、新聞のレポートによると、今大会でのLFCの収入は9億円という優勝賞金を含め実に約60億円にものぼるということです。各国リーグのトップクラブにとって、チャンピオンズリーグ出場、そして勝ち進めるかどうかはまさに死活問題となってきています。どのビッククラブも、出場はもちろん、ある程度勝ち進んで収入が入るだろう、という前提で予算を組んでいるので、それが数年続けて達成されないと一気に経営難に陥ってしまうのです。

ではそんなトップクラブの収益構造を、LFCを例に説明したいと思います。LFCのHPにいけば、簡単に手に入るアンニュアルレポートを見ると、全ての収入、支出が詳細にわたって記述されています。

ヨーロッパでは一般的にその収入源を大きく3つ、マッチデイ、メディア、コマーシャルと分ける場合が多いのですが、LFCはさらに細かく、全収入を5つに分けているのでそれに従って説明したいと思います。

まず総収入ですが、昨シーズンは約180億円。世界一のマンチェスターユナイテッドが340億円ぐらい売り上げているので、まだまだ差があります。あくまでも売り上げ面では。ちなみにLFCは、ファンベースはマンチェスターユナイテッドより多いといわれているのですが、あるデータによるとファン一人あたりの売上額がマンチェスターユナイテッドの半分ぐらいしかなく、そういった商業面から「眠れる巨象」といわれています。つまり、商売下手ってことですね。

収入の内訳を“Cup competition”、“Premier League; TV revenues”、“Sponsorship”、“Retail merchandising”、“Premier League; Match-related”の5つに分けて説明します。まず“Cup competition”ですが、これはチャンピオンズリーグやUEFAカップ、FAカップなどからの収入。昨年は11億円ちょっとで一昨年の20億円から大幅減。理由は昨年はチャンピオンズリーグに出場できず、さらにUEFAカップでも早期敗退してしまったため。これが今シーズンは先ほども述べたように60億円近い収入になります。ただ、LFCはプレミアリーグを5位で終了してしまい、原則的には来年度のチャンピオンズリーグ出場権は獲得できませんでした。そういった点から来年度の収入はやや不安です。ただ、チャンピオンズリーグで優勝した場合、特別枠が与えられる可能性もこちらでは噂されています。FAは規定どおりリーグ4位までのチームに出場権を与える、という姿勢を変えていませんが、UEFAのヨハンソン会長は前年度優勝チーム枠を設ける、みたいな話をしていて、こちらでは議論を呼んでいます。ちなみに数年前、スペインで同じ状況が起き、優勝したレアルマドリードがリーグ戦順位が足りず、本来なら出場できなかったのですが、スペインサッカー協会が特例としてレアルに出場権を与えた、という例もあります。

次に“Premier League; TV revenues”ですが、これはプレミアリーグから得る放映権料収入。Jリーグと同じくプレミアリーグが一括でスカイTVと交渉し、それをチームごとに配分していく、というものです。ちなみに配分方法ですが、放映権料の全体の50%を全プレミアリーグクラブで均等に分け合い、25%を最終順位によって、そして残りの25%を放映回数によって配分します。これははっきりいってクラブとしては営業努力の余地のない部分で、また今後は徐々に減少していくものと予想されています。従ってクラブの視点から見ると、収入源としてはとても重要ですが、マーケティング面から考えるとあまり重要ではない、といえます。この収入はLFCの場合全体の収入の3割近くを占めていますが、小さなクラブになると、この割合が50%前後になってきます。これはとても危険な状態で、というのももしプレミアリーグから降格した場合、2年間のパラシュート措置(多少の放映権料が分けてもらえる)のあと、この放映権料収入は全くゼロになってしまうからです(勿論2部リーグとしての放映権料は入りますが、プレミアのそれに比べると「ピーナッツ」です)。想像してみてください、いきなりあなたの給料の(収入の)半分が来月から減る、という状況を。まさに死活問題ですね。ですので各クラブはこの割合を30%ぐらいに抑えるよう、つまり他の収入源からの収入をもっと増やそうと頑張っているのです。

三番目に“Sponsorship”です。LFCのシャツスポンサーはご存知の通りカールスバーグ。この契約がもうすぐ切れるため、交渉中でしたが先日契約更新が発表されました。契約料は年間10億円です。マンチェスターユナイテッドのVodafoneとの契約は18億円ぐらいといわれており、ここでも大きな差があります。ちなみにリバプールはイングランドのチームで最初に胸スポンサーを入れたチームで、その当時はファンからの批判が凄かったそうです。

次に“Retail merchandising”。これはグッズの売り上げで昨年度は22億円ほど。これもファンベースを考えると相当低い数字で、努力の余地あり、です。ちなみにリバプールの人たちは試合の日でもないのにユニフォームを着ているケースがとても多いです。中には短パン、ソックスまで履いて戦闘準備完了の子供もよく見かけます。また、女性はとてもお洒落していてるのにその相手の男性は堂々とゲームシャツやジャージ、というカップルも相当数います。

最後に“Premier League; Match-related”です。これにはチケット売り上げやビール、食べ物などの売り上げが含まれます。これは44億円ぐらいの売り上げで、全体の25%ぐらいを占めています。今こちらではここの収入源をいかに増やすか、というのが一番ホットな話題で、色々な議論がされています。例えば、コンコースに液晶TVを設置し、オリジナル映像やニュースを流す、そこに広告も募集する。そしてそれによってファンの人が少しでも早くスタジアムに来て、ビールや軽食を楽しんでもらえば、その売り上げも上がる、という狙い。というのもこちらのファンの人はぎりぎりまで(多くの人がキックオフ直前、キックオフ時間が過ぎても)近くのパブでビールを飲んでいて、なかなかスタジアムには入りません。まあスタジアムの食べ物やビールはあまり美味しくない上に、座席は小さく、決してすわり心地がいいとは言えないので、その気持ちもわかりますが。イングランドの古いスタジアムは本当に「サッカーを見るため」だけに作られています。そのかわり殆どどこの席からも非常に見やすいです。またイングランドのフットボール文化の特徴とも言える収入源の「コーポレートホスピタリティ」もここに入ります。これはクラブから貴重な収入源として非常に重要視されていて、試合前に食事をスタジアム内のレストランで食べ、そのあとボックス席に移って観戦、という企業向けのサービスです。ちなみにアーセナルはすでに新スタジアムのコーポレートホスピタリティ用ボックスシートの殆ど売り切っている、というから驚きです。ちなみにジーンズ、スニーカーでは入れませんのでここからご観戦の際はご注意を。チケット売り上げに関してはプレミアリーグの全試合が平均で90%前後のスタジアム占有率を誇ります。ビッククラブの試合のチケットはほとんど手に入りません。そこで多くのクラブがスタジアム拡張、あるいは移転を計画しています。LFCもアンフィールドのすぐ隣に6万人規模のスタジアム建設が決定しています。そういった意味でこの分野の収入増は間違いないでしょう。と同時に多額の借金も負うことにはなりますが。ちなみにシーズンチケットのウエイティングリストには実に2万5千人もの人が名を連ねているそうです。

以上、簡単ではありますが、イングランドのフットボールクラブの収入構造を、本年度ヨーロッパチャンピオンリバプールFCを例にご説明しました。何よりもこういった情報がHPから簡単に手に入る、それだけイングランドのクラブは開かれたクラブである、ということが素晴らしいと思います。LFCは7月末に日本に行くことが決定していますので、応援よろしくお願いします。先日お会いしたベニテス監督は日本びいきでとても良い方でした。


藤原 兼蔵(ふじわら けんぞう)藤原 兼蔵(ふじわら けんぞう)

1974年6月20日生まれ、東京都出身。都立駒場高校、東京学芸大学にてサッカー部所属。大学卒業後、仕事のかたわら駒場高校でコーチとして後輩の指導に携る。

2004年9月よりリヴァプール大学フットボール・インダストリーズ・MBA在籍中。

日本サッカー協会公認C級ライセンス保持。

個人サイト: KENZO−FIMBA通信