コーチの志 - Vol. 9

プレミアリーグが開幕し、サッカーファンにとってはまた一喜一憂の時期がやってきました。テレビで昨年の王者チェルシーと今年昇格して早くも降格候補ナンバーワンと言われるウィガンの対決を観戦したのですが、この試合、最後に両者の妙案を分けたのはメンタル面での違いだったのではないでしょうか?結果は引き分けでもおかしくなかった試合を、アウェィのチェルシーが残り30秒で1点をもぎ取り、勝ち点3を奪ったのですが、対照的だったのは、後半交代出場した2人の選手でした。チェルシーのクレスポは闘志をみなぎらせてピッチに出てきたのですが、ウィガンの途中出場したヨハンソン選手は、スタジアム全体の雰囲気に完全に飲み込まれてしまい、試合に入っていけなかったように感じました。結果ヨハンソン選手は2度あった決定機と、残り1分で得たGKとの1対1の最大のチャンスを外してしまい、逆にそのゴールキックからクレスポに1点を許してしまいました。

また、チームとしても、チェルシーが勝利を諦めなかったのに対し、ウイガンの場合、試合終了間際のチームの雰囲気は選手、そしてサポーターのスタジアム全体が引き分けでよいという風な受身になってしまっていた様に感じました。それまでは完璧にチェルシーの攻撃を封じ、チェルシーのモーリーニョ監督にも負け試合だったと言わしめた、素晴らしいサッカーをしていただけに非常に残念な試合でした。サッカーの試合で1番、ゴールが入りやすい時間帯は、前半終了間際と、後半の試合終了間際であるといった統計が出ています。今回のウイガンのケースは、少しの心の隙が失点という形で表われてしまったのではないでしょうか。ウイガンはこの試合をどのように捉えるかによって、今シーズンの結果が決まると思います。上のレベルになればなるほど、最終的に勝敗を分けるのはメンタルの部分です。今後、サッカー界でも技術、フィジカル、戦術といった要素だけではなく、もっと専門的にメンタル面強化を行う必要性があるのではないでしょうか。

さて話は変わりますが、今夏も、マンチェスター・ユナイテッドのサッカーキャンプに参加してきました。今年も1週間単位で毎週約30カ国から、120人の子供達が参加しました(*今夏から8歳〜11歳は別の場所)。おそらく世界中からこれだけの子供達を集める事ができるのは、マンチェスター・ユナイテッドだけではないでしょうか。このネームバリューには本当に圧倒されます。1週間のコースにかかる費用が一人、約8万円にもかかわらず、このキャンプに参加するために5割以上の子供達が海外からやってきているのです(もちろん渡航費は別)。

今回、1週目に私の受け持ったグループは14歳で、アイスランド、デンマーク、メキシコ、ボリビア、スペイン、スコットランド、イングランドと多国籍なグループとなりました。これだけの子供達が集まれば本当に国際色豊かでグラウンド上でも、グラウンド外でも本当に様々な文化の違いを垣間見る事ができました。(メキシコ、ボリビアの子供達は必ず集合時間に遅れるので、本当に手を焼きましたが…)もちろん合宿では、英語が得意でない子もいますし、文化の違いなどで難しい面も多々ありましたが、このように国境を超えて一つのボールを追いかける事で、みんなが一つになり、そして楽しんでいる光景は本当に微笑ましいものでした。国籍、肌の色、文化的背景など関係なく、みんなで熱中する事に根本的なスポーツの素晴らしさ、そして意義があるように思えました。このような経験を子供のうちから体験できる事は本当に素晴らしい事だと思います。今回の合宿は日本からの参加者がいなかったのが残念だったのですが、将来このようなサッカーキャンプを日本でも行えればと思います。

たとえ1週間しか一緒にいなくても、閉会式後の別れはつらいものです。しかし、「また来年戻ってくるね」、「来年もリョウのグループに入れてね」などという言葉をかけられると本当にコーチ冥利に尽きます。今回も本当に大変貴重で、素晴らしい経験ができました。このサッカーキャンプを通じて、世界の人々と触れ合う素晴らしさ、また人種差別のおろかさなどをきっと子供達も理解してくれたと思います。今回、私の担当した子供達の中でプロサッカー選手として成功する子供達はそんなに多くないと思います。しかし、こういった経験は一生の財産となるはずです。私がそうであったように、サッカーを心から楽しみ、将来はどの様な形でもよいので一生サッカーに携わっていけるような人材を育成していくことが、コーチにとって一番大切な事なのかもしれません。

ここからは余談ですが、一昔前までは、グランパスなどリネカー選手が在籍していたからチーム名だけなら知っているといったイギリス人が多かったのに対し、最近では浦和レッズ、鹿島アントラーズ、FC東京などプレシーズンで海外のチームと試合をした日本のJリーグチームが印象深く残っているようです。今回のマンUの遠征に帯同したサッカースクール・ダイレクターのジョン氏も、特に浦和の17番(長谷部選手)と鹿島の10番(本山選手)は印象深かったと話されていました。今後、こういった海外とのチームとの試合が増え、そこで良いゲームをすれば日本サッカーの知名度ももっとあがるのではないでしょうか。ただ、キャンプ中にチャンピオンズリーグをみんなで観戦した際に、パク・チソン選手が出場したと同時に子供達から"リョウ"コールが沸いた際には、まだアジアは一つとして考えられているのを痛感させられました…。しかも、パク・チソンに似ているといわれてもあまり嬉しくなかったりもします…。

最後に、今年のマンUのアウェイ用のユニフォーム、選手の練習着、スタッフ用に配布されたウェアのカラーが青でした。ご存知の方も多いと思いますが、もちろんマンUのチームカラーは赤で、青はチェルシー、エヴァトンなどライバルチームのカラーであるためファンからは嫌われる傾向があります。それをなぜ今更青を取り入れているのかと少々疑問が残りました。去年のアーセナルのセカンドユニフォームも青でしたし、これもビジネス的戦略の一部なのでしょうか!?


志垣 良(しがき りょう)志垣 良(しがき りょう)

1980年5月9日生まれ、福岡県出身。小学校1年からサッカーを始め、東福岡高校卒業後、渡英。

2005年リヴァプール・ジョン・ムーアズ大学サッカー科学学科卒業。トランメア・ローヴァーズ下部組織とマンU・サッカースクールでコーチを務める。

FAコーチングライセンスおよびFAインターナショナルライセンス保持。

連絡先: ryo32@hotmail.co.uk